ブラック・ジャック回想録 第4章 Point of No Return

2020.07.28

ブラック・ジャック回想録 第4章 Point of No Return

図らずもこの回想録を書いている今、ある事件から原作の「ブラック・ジャック」が再び脚光を浴びている。
市内の新型コロナウィルス感染拡大傾向を受け、浜響もこの週末に開催予定だったアンサンブル研修会を中止せざるを得なくなり、少し希望が見えていた練習再開も、また先が見えづらくなってしまった。

「ブラック・ジャック」がテーマとする「生と死」。
世の人々がこれほど身近に感じて真剣に考えたことは、近年無かったのではないだろうか。
先が見えないと不安になるのは仕方がないが、冷静にそして多角的に物事を考える姿勢は、失わないようにしたい。

さて、5年前に話を戻そう。

プログラムが出来上がったら、それを実現させていくのが裏方の務めだ。
予算作成、共催者や共演者との各種調整、団での役割分担、練習計画の策定、楽譜の調達、チケット販売、10周年記念特別企画・・・動き出したら、目の回る忙しさになる。
新作オペラ「ブラック・ジャック」コーナーに関しては、村木氏に完全丸投げ・・・いや、お任せした。

それでも、自分の企画したプログラムでコンサートができるのだ。
純粋に嬉しかったのを今でも記憶している。
たった数分の演奏のためにパイプオルガンを使わせてもらうなど、わがままを聞いてくれた団の役員や文化振興財団の皆さまには、感謝しかない(本当です!)。

いよいよ、はましんコンサートの練習が始まった。
浜響が普段演奏するのはベートーヴェンやブラームスなどのクラシック音楽なので、音源もすでにたくさんあり、練習前からある程度事前に予習が可能だし、曲によっては、過去に何度も演奏している場合もある。だがポップスとなると、浜響自体はほとんど経験が無いので、プロのオーケストラが演奏した音源を参考にしても、やはり曲になじむまでにかなり時間がかかった。

ましてオペラになったらもう、音源どころか楽譜すらないのだ。
オーケストラのスコアは、まだ作っている真っ最中。そこからさらにパート譜を作成する作業がある。写譜屋さんもフル回転だ。

五月雨式に届くオペラの楽譜を配りつつ、楽譜の揃っているポップスの曲を練習していく・・・という流れ作業のような練習。届いた曲を一つずつ、団員それぞれが必死に身体に叩きこんでいく。
オペラ公演の本番直前まで、万事こんな形で練習が進められていった。

この時、我々はまさに音楽が生まれ出る瞬間に立ち会っていたのである。
こういった経験は、オーケストラの活動をしていても、なかなかできるものではない。

はましんコンサートは、浜響がオペラ「ブラック・ジャック」を初めて聴衆に披露する舞台。
「ごめんなさい、やっぱり無理でした」という選択肢は、ない。

我々はもはや、引き返せないところまで来てしまったのである。

(つづく)

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※ 続けて読まれたい方は下記リンクから。

  連載 『 ブラック・ジャック回想録 』

▶ 1. ブラック・ジャック回想録  序章 (2020.06.14)

▶ 2. ブラック・ジャック回想録  第1章 立役者 (2020.06.27)

▶ 3. ブラック・ジャック回想録  第2章 アキラさんと宮川家と浜松 (2020.07.07)

▶ 4. ブラック・ジャック回想録  第3章 はましんコンサート (2020.07.16)

▶ 5. ブラック・ジャック回想録  第4章 Point of No Return (2020.07.28)