2020.08.29
ブラック・ジャック回想録 第6章 歌合わせ
我々がはましんコンサートに没頭していた頃、歌手の方々はどうしていたのか。
もちろん、彼らだって練習していた。・・・東京で。
「市民オペラ」といっても、出演者・制作スタッフ全員が浜松市民という訳ではない。
練習の度に全員が浜松に来るわけにはいかないので、練習場所は都内、ということになる。
村木氏の東京出張の回数は・・・想像するだけで卒倒しそうである。
音楽に地域の境界線は無い。
出演者・制作スタッフが「市民」であることにこだわるべきかどうかは、議論があるかもしれない。
しかし今回地域の枠を超えて集まった出演者・制作スタッフが一丸となったからこそ、この新作オペラ「ブラック・ジャック」は大きな成功を収めることができたのである。そして出演者あるいは聴衆として、市民はこの作品を享受できた。一流の音楽家・技術者たちと共演できたことは、出演した市民にとっても、素晴らしい経験となったに違いない。この経験が、市民の文化発信の原動力となっていく。
これこそ、「市民オペラ」の最大の成果と言えるのではないだろうか。
オペラ本公演1か月前、7月末にアキラさん渾身のオペラ「ブラック・ジャック」のスコアが、ついに完成した。スコアの総ページ数、約500ページ。ここに至るまでどれほどの苦労があったのか、我々には想像することすらできない。
主要キャストを浜松に呼んで、浜響がようやく合わせ練習ができた時には、本番まで一か月を切っていた。
オペラ演奏では、オケが直接見ることができない舞台の上にいる歌手たちと、いかに呼吸を合わせられるかが重要となる。
歌手がどのように表現するのか、実際に見ながら演奏ができる合同練習の時に、そのタイミングを掴んでいくしかない。
アキラさんは、相手がアマチュアだからといって手を抜くようなことは決してしない。
だからこそオケも必死になって、アキラさんの熱意に応えようとする。
本番までに歌合わせができる日は数日しかないので、練習は休日を使って朝から夜まで、丸一日の集中練習となった。
合わせ練習をしていく中で、出演者の提案から歌詞や演出が変わることもある。
新作オペラは、出演者全員で作り上げていくものなのだと実感した。我々もオケとはいえ、このオペラの「オリジナルキャスト」なのだ。
本番が近づき、オペラ関係者とのコンタクトが増えてくるにつれて、裏方メンバーは浜響窓口として、オケとオペラ制作サイドの間の調整で忙しくなっていく。
舞台監督など制作スタッフ全員がオペラ公演本番の舞台であるアクトシティに初めて集合したのが、本番の1週間前。
そこから舞台の仕込みを行い、いよいよホールでの練習がスタート。
とはいえアマチュアの浜響は、1週間ホールに缶詰めになるわけにはいかないので、通常練習日の水曜日と、直前の金曜日の夜から本番にかけての練習参加となった。
本番は目前。
あとは腹を括って本公演に臨むのみだ。
(つづく)
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※ 続けて読まれたい方は下記リンクから。
連載 『 ブラック・ジャック回想録 』
▶ 1. ブラック・ジャック回想録 序章 (2020.06.14)
▶ 2. ブラック・ジャック回想録 第1章 立役者 (2020.06.27)
▶ 3. ブラック・ジャック回想録 第2章 アキラさんと宮川家と浜松 (2020.07.07)
▶ 4. ブラック・ジャック回想録 第3章 はましんコンサート (2020.07.16)
▶ 5. ブラック・ジャック回想録 第4章 Point of No Return (2020.07.28)
▶ 6. ブラック・ジャック回想録 第5章 奈落の底から (2020.08.19)
▶ 7. ブラック・ジャック回想録 第6章 歌合せ (2020.08.29)
▶ 8. ブラック・ジャック回想録 最終章 新たな夢へ (2020.10.15)