ブラック・ジャック回想録 第5章 奈落の底から

2020.08.19

ブラック・ジャック回想録 第5章 奈落の底から

はましんコンサートは、おかげさまで満員御礼の大盛況に終わった。
懸案のオペラコーナーに関しても、ソリストや合唱団にも入っていただいて、本公演への期待を高めるものになったと思っている。

アマチュアながら、これだけの演奏会を短期間の練習で仕上げて開催できたこと。
これぞ浜響の底力!と言えるであろう。

アクトシティ中ホールで初披露を終えた我々は、いよいよ本公演の行われる大ホールに舞台を移すことになる。

アクトシティ大ホールの舞台の下には、「奈落」と呼ばれる広大な空間が広がっているのをご存知だろうか。
反響板を置いた状態なら大ホールは一見普通のホールだが、実はあのステージごと上下左右に動かせたり、回転させたり、すごい仕組みが満載のハイテク劇場なのである。こういった舞台機構を使用するにあたり、奈落が大きな役割を果たしている。

オペラ本公演では、オケは「オーケストラピット」いわゆる「オケピ」で演奏する。
地盤崩落で陥没した道路のように、客席の一番前あたりが大きな穴となってへこみ、奈落の中にステージが出来上がる。
オケはその真っ暗な穴の中に潜りこむのである。

穴の周囲は板で囲いをするため、本番中は、オケは聴衆の目に入らないようになっている(幕間には中を覗きに来る人が必ずいて、板囲いの上から覗かれるとまるで動物園のサルになった気分だ)。

舞台上で演奏するのと違い、オーケストラピットは狭い。
演奏者が全員入ればまさに今でいう「三密」そのものである。本番中は舞台を明るくするためピット内は真っ暗、楽譜が見えないので譜面灯のみがオケの灯りとなる。

キラキラと照明を浴びて、舞台の上で華やかに歌い踊る歌手たちと、片や真っ暗な奈落で演奏するオケ。これが世界初演の新作オペラともなれば、文字通り「板子一枚下は地獄」である。

陥没した穴の中でしかも舞台に背中を向けているので、オケからは舞台の上はほぼ見えない。どんなに美しい音楽で舞台を盛り上げても、どんなに舞台の上が気になっても、その目で直接その情景を見ることはできないというのが、オケの悲しい宿命だ。

あとで公演のDVD等を観て初めて、「なんと、上はこんなことになっていたのか!」と驚くのである。

(つづく)

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※ 続けて読まれたい方は下記リンクから。

  連載 『 ブラック・ジャック回想録 』

▶ 1. ブラック・ジャック回想録  序章 (2020.06.14)

▶ 2. ブラック・ジャック回想録  第1章 立役者 (2020.06.27)

▶ 3. ブラック・ジャック回想録  第2章 アキラさんと宮川家と浜松 (2020.07.07)

▶ 4. ブラック・ジャック回想録  第3章 はましんコンサート (2020.07.16)

▶ 5. ブラック・ジャック回想録  第4章 Point of No Return (2020.07.28)

▶ 6. ブラック・ジャック回想録  第5章 奈落の底から (2020.08.19)

▶ 7. ブラック・ジャック回想録  第6章 歌合せ  (2020.08.29)