「イタリアのハロルド」の練習

2022.10.10

「イタリアのハロルド」の練習

10/5は「イタリアのハロルド」の合奏でした。

ベルリオーズ作曲「イタリアのハロルド」は、交響曲では珍しいヴィオラ独奏付きの作品です。
バイロン卿の長編詩が基となっており「幻想交響曲」と比べると素朴な印象ですが、各楽章の副題にあるように、ハロルドの憂愁や歓び、黄昏時の巡礼の行列が近づいては遠ざかる様子などが、色彩豊かな曲想をもって表現されています。

「イタリアのハロルド」の日本初演は1953年に行われたのですが、実はその40年以上前、小説家・永井荷風はこの曲の詳細を自身の小説に記しています。彼は滞在していたフランスでこの曲を聴いており、その時の経験に基づいて執筆された短編小説集「ふらんす物語」では、登場人物がこの作品に言及する場面があるそうです。
…というのはwikipediaの受け売りですので、百聞は一見に如かず、「ふらんす物語」を借りてきました。この本、意外にもその辺の書店には置いておらず、図書館の閉架書庫から引っ張り出してもらいようやくお目にかかることができました。普段小説を読まない人間には難しい旧字体のオンパレードですが、その中に「イタリアのハロルド」について、独奏ヴィオラのメランコリックな音色に着目した一節を見つけました。

『凡てかかる山里の空気、色彩、物音をば百人に近き楽師の合奏する中に、唯だ一挺のアルトはチャイルド、ハロルドと限らんよりは、寧ろ其等に等しき憂愁を抱く旅人の心を奏で候。清霊なる伊太利の山里の浮世を見つつ彷徨ふ旅人の心の淋しさよ。余は水のごとく吠え、風のごとく消ゆるオーケストルの中に、断えては続くアルトの音色の悲しさを、生涯忘るる事無かるべしと存じ候。』(ひとり旅 『ふらんす物語』より)

自然の景色に囲まれると、美しいと思うとともに、もの悲しさを覚えることがあったりするのですが、ベルリオーズが旅の寂寥感を美しい曲に込めたのは、旅の風景の中にこういう感覚を覚えたからなのかと(勝手に)思うと、身近に感じられるような気がします。

(Vn H)