ある浜響団員の生涯の挿話

2016.11.26

ある浜響団員の生涯の挿話

img_0982僕が初めて「幻想交響曲」と出会ったのは、大学2年の春休みのこと。

今もあるのか分からないが、関西にある大学オーケストラの連盟(通称オケ連)が当時毎年琵琶湖のほとりで開催していた「オケ連合宿」の、その年の練習曲が「幻想」だった。
まだ楽器を始めて2年足らずの僕がこの曲を演奏すること自体、個人的にも無謀だったわけであるが、何しろビンボー学生の寄せ集め、第5楽章に出てくる鐘などあろうはずもなく、トライアングルで代用するという、ショボいこと極まりないものだった。

合宿初日の夜は、第3楽章の練習だった。
「・・・で、106小節あたりでその愛しい女性の首を絞めて、110小節から次第に息絶えていく感じで演奏しましょう。」まだ若いトレーナーの独自の解釈もそっちのけで、僕の視線はただ一点に注がれていた。オケ連を見渡してもこれほどの美人はいないんじゃないかと思える、意中のヴァイオリンの先輩だ。ウチのオケの中でも引く手あまた、コントラバスの先輩とすでに付き合っているのも知っている。

練習の後、みんながパート別宴会に向かう中で、僕はひそかに彼女を合宿所の外に誘いだすことに成功した。月明りが湖面を照らし、沖で漁師たちの呼びかけあう声が遠くから聞こえてくる。ちょっとした酒の勢いも借りて、僕は彼女に思いを伝えた。
もちろん、断られた。それでも、僕はこのチャンスを何とかものにしたいと、しつこく迫った。ついにその場を離れようとする彼女を引き留め、あろうことか、僕の手は彼女の首に手をかけていた。

・・・気が付くと、雨が降っていた。足元には、彼女が横たわっている。
怖くなって、僕は逃げた。雷鳴がとどろく水辺に沿って、僕はどこまで走ったか分からない。

息を切らせて立ち止まると、後ろから誰かが追いかけてくる音が聞こえ、慌てて木の陰に隠れた。そっと覗いた瞬間、雷の閃光に浮かび上がったのは、あの美しい先輩の変わり果てた姿!

「ギャー!」

自分の声で目を覚ますと、辺りはビールの空き缶やら焼酎の空き瓶やら、開いたスナック菓子の袋が散乱した真っ暗な部屋。
どうやら、パート別宴会でハメを外し過ぎたらしい。練習中にトレーナーの話していた「幻想」のストーリーも手伝って、悪い夢を見たようだ。それにしたって、誰か起こしてくれればいいのに。
「・・・さ、寒い。」

案の定、翌日は風邪をひいて練習に出られず、冷え切った部屋のカビ臭いせんべい布団の中で一日過ごすことになってしまった。。。

そんなある浜響団員の古き良き思い出ものせて、演奏します。
ちなみに、やはり「幻想」は今でも第3楽章が好きです。

幻想交響曲の詳細は、当日のプログラムに掲載されている曲目解説でご確認下さい。

(写真は雷鳴を担当する4台のティンパニ)